長崎地方裁判所佐世保支部 昭和57年(モ)142号 決定
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【判旨】
1 一件記録によれば次の事実が認められる。
申立人は、昭和五三年一二月一八日、資本金三〇〇万円で設立された有限会社であつて、その目的とするところは、「1医療用薬品の販売、2健康、保健用器具類の販売、3健康食品の斡旋、販売、4前各号に附帯関連する一切の業務」であつて、実際には、佐世保市内及びその周辺地域の病院に医療用薬品を販売することを業としていたものであるが、本訴被告が申立人所有の医薬品多数を横領した結果多大の損害を被り、昭和五四年六月ころには事実上倒産し、以降営業不能の状態にある。従業員はいないし、申立人の休廃業によつて右地域の医療業務に支障が生ずることは全くない。申立人は、医薬品の仕入先である東光薬品に対し約金一七〇〇万円、野崎英子に対し金五〇〇万円、親和銀行に対し約金四〇〇万円の債務を負うなど、多額の債務を有しているが、資産としてはロッカー一台等数点の動産があるにすぎず、みるべきものはない。申立人代表者は、個人として一億円余の債務を負担しており、何らみるべき資産を有しておらず、現在生活保護を受けている状態であり、申立人の取締役である山本正春は、もと申立人代表者の夫であつたが、右事件を契機に離婚しており、特段の財産はなく、申立人のために金員を提供する意思も能力もない。申立人に対する債権者らは、本訴被告が受刑中であつて特段の財産を有せず、かつ申立人代表者も前記のとおり無資力であつて信用できないことから、本訴のために助力をしないばかりか関心さえ示さない。
以上の事実によれば、申立人には本訴を追行するに必要な資力はなく、本訴追行に利害のある者からの資金の提供も期待しえない状態にあることが明らかである。さらに、申立人の目的とするところは、医療用薬品の販売等で、社会的に相当と認められるものであり、かつ実際上の事業もその目的に副うものであつたのであるから、その事実に際して蒙つた前記不法行為による損害の賠償請求を内容とする本訴請求は法によつて承認され、かつ社会的に妥当な権利行使であつて、その意味において本訴に係る権利の行使をしないと、公共の利益を害するものというべきである。
そして、申立人に右権利行使をしないことによつて困窮するかもしれないような従業員がいないこと、申立人の休廃業が前記地域の医療業務の支障とならないことなど申立人に具体的な公共の利益に関することがらが存しないことは右要件の判断を左右するものではない。
2 次に、一件記録によれば、本訴被告は、本訴請求原因と同旨の、昭和五四年一月一七日ころから同年五月一七日ころまでの間、申立人所有の医療用薬品(時価合計金六、一五一万〇、九〇〇円相当)を横領した罪で有罪の判決を宣告され、現在服役中であることが認められるから、本訴につき勝訴の見込みがないとはいえないことが明らかである。
3 以上のとおり、申立人の本件申立は、訴訟上の救助を付与する要件を満たしている理由がある。
(東孝行 仲家暢彦 高野伸)